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法学で酒が美味い

知れば、語れば、成せば、美味い。

刑事事実認定における経験則

第1 総論
「刑事事実認定の思考整理」に加筆すると分量が肥大化するので、稿を改めました。
間接事実から要証事実を推認させる過程で重要な意味を持つのが経験則です。
実務における書面ではしばしば言外の前提として必ずしも逐次明示するないものではありませんが、刑事裁判起案では中心的な評価項目になっています。
昨今の刑事司法を適切に運用する上で、法曹には判断過程を極限までわかり易く叙述する力が求められているのだと思います。
ただ、その他、思考過程を出来る限り細かくバラして論じてみると、どこに落とし穴があるかがわかり易くなります。
刑事弁護において、一見すると要証事実を推認させているように思えた間接事実について、実は大した推認力はないのではないかという着想を得る助けになると思ったりします。
前置きが長くなりましたが、この経験則について少しだけ検討してみましょう。

1 経験則の順序
経験則の類型として、下記の二つの類型が重要です。
原因:間接事実→要証事実(「間接事実があれば、要証事実が生じることがある」)
結果:要証事実→間接事実(「要証事実が存在すると、間接事実が生じることがある」)

2 経験則の段階的展開
ちなみに、ある間接事実から要証事実が推認されるというとき、経験則を複数提示してこれを積み重ねるようにして説明したほうが分かりやすいことがしばしばあります。
・当該間接事実について要証事実を推認させる個別の要素が複数含まれていて、それぞれ別個の経験則を用意したほうが書き易い場合
・記載事実を再間接事実と位置付け、間接事実を推認する経験則を指摘し、さらにそのような事実から要証事実を推認する経験則を指摘したほうが書き易い場合
などがそのような場合に当たると思います。

第2 各論
故意や共謀という主観に関する要証事実の認定をテーマに、間接事実から推認する上で提示する経験則の内容について検討してみます。
ここで要証事実と定めた主観が、計画等事前に有するものであるか、現場で惹起されたものであるかにより、上記した「原因/結果」いずれの経験則を提示することになるかが変わってきます。ここが一つの大きなポイントといえるでしょう。
なお、事実認定においては、ある経験則に照らして当該間接事実から要証事実を推認可能であるとしても、しかし反対に当該間接事実を前提にしても尚要証事実は認められないという仮説(反対仮説)の成立可能性についても検討する必要があります。これは経験則とセットで考えることが出来るものですので、こちらも一緒に検討してみます。

1 犯罪に対して事前に有する主観(意図型故意、事前共謀等)
⑴ 間接事実の例1:準備行為(情報収集、道具の準備、共犯者との情報共有)
経験則:特定の犯罪を事前に意図等していれば、当該犯罪に関する事情について予期・想定して、犯罪実現のための準備行為に及ぶと考えられ得る。
反対仮説:犯罪と無関係の動機・目的から行為したに過ぎず、事前に意図等をしていなかったという反対仮説の可能性

⑵ 間接事実の例2:行為態様
経験則:特定の意図等を有するからこそ、一定の評価(結果惹起の現実的危険のある、犯罪実現に不可欠等)が妥当する行為を行う。
(↑当該行為態様は上記一定の評価が及ぶ、前提について別個に経験則をあてはめたほうが書き易い場合もある)
反対仮説:他の意図に基づいて当該行為に出たに過ぎず、当該意図は有していなかったという反対仮説の可能性
※行為態様は、証拠上明らかな事実関係な事実関係に基づいて、専門家証言の信用性を吟味した上で、推論される行為態様を可能な限り詳細に認定すべきものです。これを受けて、経験則もまた、上記詳細な認定内容を余さず活要できるものを厚く用意する(段階的展開すると書き易い)。

2 犯罪に対して現場で有する主観(認識型故意、現場共謀等)
⑴ 行為時等の客観的状況
経験則:一定の状況(位置関係、持っている道具、共犯者の言動)等があれば、特定の犯罪に対する認識等を有すると考えられる。
反対仮説:かかる状況等への認識・評価が不十分であったために、特定の犯罪に対する認識等を有していなかったという反対仮説の可能性

⑵ 行為態様
経験則:一定の危険のある行為をする者は、通常その危険性を認識している。
※2での使い方との違いに注意
反対仮説:行為前~行為時にかけて、その危険性を認識していなかった(知覚可能性が乏しかった等)反対仮説の可能性

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刑事事実認定の思考整理

はじめに
刑事事実認定論そのものは予備試験・法科大学院・司法試験でも扱われるものだと思います。
今回は、いわゆる研修所起案対策という枠内で勉強していた刑事事実認定論について、若干の思考整理を試みました。
形の上では論述方法について整理するものですが、これは結局刑事裁判における各当事者の思考作業そのものを確認することに限りなく近いものだと思います。
分量等の問題から水準高め(二回試験攻略程度)でまとめており、物の本でわかるような一般論はできる限り省いています。
また、自分がわかりやすいような叙述をしており、研修所の用語法を必ずしも徹底していません。
事実認定とか起案について考えを巡らしている方の参考になれば幸いです。
ちなみにこれは全くの思い付きですが、法科大学院で刑事実務についての学習を深めている方とか、予備試験論文式の刑事実務対策に熱心な方にとってはひょっとすると面白い部分があるかもしれません。

第1 刑事事実認定の論述過程
科目問わず、刑事系の事実認定起案の流れは一定だなと思いました。
簡単に整理すると、
「1.証拠→2.積極的間接事実の認定と評価→3.A供述の信用性検討・消極的間接事実の認定と評価→4..要証事実の認否」
という流れにおいて、各科目は共通していると思います。

しかし、科目ごとに色々な決まり事がある以上、全科目この通りにザックリ書けばよいということにはなりません。
また、刑事弁護と刑事裁判・検察とでは、書面の性質というか事実認定スキルの使い方が全然違うので、その辺も意識して上記プロセスに乗っかる必要があります。
というわけで、科目間特性に照らしつつ、もう少し詳しく見てみましょう。

第2 科目間特性を踏まえた論述過程の整理
下記の図式にしたがって整理してみます。
0.事件・捜査
↓…A.証拠の選別
1.証拠
↓…B.証拠の信用性検討 
2.⑴積極的間接事実の認定
↓ ⑵評価=推認理由・推認力の検討
↓…C.一応の認定可能性
3.A供述の検討・消極的間接事実の検討
↓…D.合理的疑いの有無
4.要証事実認定の可否

まず、「1」~「4」の記述ステップは同上です。
その上で、各ステップ間に介在する思考テーマについて「A」~「D」のトピックを付記しました。
また、「A」について考える際の便宜として「0.捜査」を加えてみました。

「1.証拠」について
⑴ 証拠の範囲
まず重要なのは、科目によって証拠の性質・範囲が異なっていることです。
刑事裁判と刑事弁護では、公判で取調べられた(られる)証拠用います(刑弁では開示証拠もありますが、これも結局その内容の重要な部分は尋問等で顕出することを想定するので同様でしょう)。
すなわち、証拠は厳選されており、各証拠には個別の意義があることを意識して使っていくことになります。
以上に対して、検察では当該事件に関して終局処分段階までに収集される証拠全てが提供されます。
そのため、各証拠に個別の意義があるのか、組み合わせて指摘すべき証拠の塊はあるか等情報の整理に対して思考リソースをより多く割く必要があります。
余談として分野別修習の話をしますと、検察では公訴事実記載事実等の立証に必要な限度で請求証拠を選別する作業(「証拠分け」といいます)をします。検察官は証拠分け後の証拠を裁判所に請求するわけですが、これに対しては弁護人側から証拠意見が出され、撤回すべき証拠(伝聞例外を満たす余地のない不同意書証など)が出てきます。
その他、必要性・相当性等について裁判所を含めた三者の協議、裁判所の職権判断を経て、更に証拠が絞られることになります。これによって証拠が厳選された状態に至ります。

⑵ 事件の特定
そもそも事実認定を行っていくべき事件像が初めから特定されているかという点で科目間の特性が分かります。
刑事裁判では、公訴事実の形で明らかになっており、これを前提に認否を判断すればよいことになります。
刑事弁護でも公訴事実が明示されていますが、被告人からの聴取メモや証拠関係から公訴事実とは異なる事件像を把握する必要があります。
検察では、証拠から事件像を具体的に特定していくことが求められます。送致事実はあくまで参考に過ぎず、公訴事実は各自で組み立てるべきものです。その意味で、事実の評価よりも事実の認定それ自体にボリュームが割かれる科目と言えるでしょう。

⑶ 証拠の選別
小問の中では「A.証拠の選別」ということで、例えば供述調書の証拠能力について「0.捜査」の内容を踏まえて検討したり、公判審理のあり方として同じ内容でも望ましい証拠方法を検討したりということが問われます。
進んで検察では、認定できる間接事実毎に、立証の難易度を検討することが求められます。そこでは、認定根拠である証拠の公判における取扱いを想像することになります。

⑷ 証拠の信用性
そして、事実認定において重要なのが「B.証拠の信用性検討」です。供述証拠を念頭に置いてます。
ある(再)間接事実の認定根拠が供述証拠である場合には、その信用性が問題なります。
刑事裁判・検察では、供述内容通りの事実を認定できる(できない)ことを説明する観点から、信用性検討を行います。
対して刑事弁護では、検察官主張事実の不存在を主張する目的で信用性検討を行います。すなわち、ある検察官主張事実について、その認定根拠が一定の供述証拠である場合に、当該証拠の信用性を弾劾することで上記主張事実の不存在を主張するわけです。
ここに、刑事裁判・検察起案の二つと、刑弁起案との間にスタンスの違いの一端が見えます。
前者は、一定の結論に至る思考過程を説明するものですが、後者は一定の結論獲得に向けた説得の論拠を主張するものです(民裁起案と民弁起案との相違にも通じるものがあると思います)。

「2.⑴積極的間接事実の認定」について
ここ提示すべき間接事実のレベル感(証拠との距離、あるいは要証事実との距離)について検討してみましょう。
間接事実は、推認という過程を経て、要証事実の立証に役立つものです。
この間接事実もまた、証拠から認定する際には、一定の推認の過程なくてはなりません。証拠と間接事実との中間項に再間接事実を置いて考えるべきこともあります。
結局、間接事実として起案で提示するのは、証拠から要証事実の認否という判断を導く過程を分かりやすく説明するための中間項(スタート地点である証拠から、ゴールである要証事実という道の途中に置かれる道標)みたいなものだと思います。
そうすると、提示する間接事実をどこに置くかというと、スタート地点付近に置く(証拠から明らかに推認できるレベルで提示する)こともあり得るし、ゴールに近いところで置く(証拠から再間接事実の認定を経て、要証事実の認定に近い段階の事実を提示する)こともあり得るしということが分かると思います。
例えば検察起案の「概要」はかなり要証事実に近い(意味付けにおいて縷々事情を付加して評価する必要がない)レベルで指摘しています(「概要」というテーマに即しています)。
これに対して、たとえば証明予定事実記載書面において記載される事実などは、上記「概要」よりも証拠に近く、「概要」記載の事実を間接事実と位置付けるならば「再」間接事実に位置付けられるようなものになるでしょう。
刑事裁判・刑事弁護においては、基本的に証明予定事実記載書面を参考に検討するので、後者のレベルで間接事実を捉えればよいでしょう。
(なお、検察での「概要」について、実際の起案でどう書くべきかと言えば、必ずしも前者のような「概要」認定をする必要はないのかなという感触を持ちました。「概要」の中で後者よりの詳細な事実を挙げた上で、意味付けの中で推認理由を示していれば問題ないのではないかと思います。検察起案はいかに早く書き進められるかが肝要です。「概要」の抽象度合で悩み書き出せなくなるくらいなら、書き易いレベルで書き出してしまった方が良いだろう考えていました。)

「2.⑵評価=推認理由・推認力の検討」について
⑴ 科目間の異同
刑事裁判では、推認理由(意味合い)について、一般的な経験則を規範として提示し、そこに認定事実をあてはめて、結論として要証事実を積極に推認させる一定の意義があることを書くことが求められます。その上で、当該事実の存在を前提しても尚反対事実が存在する可能性がある程度を検討して推認力(重み)を吟味します。
刑事弁護では、上記に則り、経験則が不合理であると述べて推認理由はないと主張したり、または(消極的間接事実・補助事実を踏まえて)反対事実の存在可能性の高さを主張して推認力はないと主張したりします。
検察では、意味付けという項のなかで推認理由・推認力の検討をしますが、消極的間接事実・補助事実を踏まえた推認力の検討も十分行うことが望ましいでしょう。

⑵ 一応の認定可能性
積極的間接事実を全て摘示し終えた後に検討すべき事項が「C.一応の認定可能性」です。積極的間接事実の検討内容を総合して、一応要証事実が認定できる程度に至っている必要があります。その程度に至らなければ、進んで消極的間接事実等の検討に踏み込むまでもなく要証事実は認定できないと結論付けることが出来ます。特に刑事裁判での論述で意識を示すことが望ましいものです。民事事実認定における規範的要件について評価根拠事実が十分な推認力を有しないと失当になるのと同様の話だと思っています。

「3.A供述の検討・消極的間接事実の検討」について
刑事裁判・刑事弁護においては、A供述・消極的間接事実については推認力検討の中で一部行われていることがしばしばあります。したがって、そこで検討しなかったものについてここでまとめて行うことになると思います(もっとも、刑事裁判などでは、敢えてA供述はまとめて後で検討するというスタイルもあると思います。)。
対して、検察の犯人性起案では、A供述不使用原則があるので、最後に一括して吟味していきます。ただし、消極的間接事実(A供述に依拠するものを除く)の検討は、推認力検討の段階で済んでいることもあるでしょう。


「4.要証事実認定の可否」について

「3.」までの検討を通じて、積極的間接事実による認定について「D.合理的疑いの有無」が残るか考えます。
ここからは若干私見じみていますが、思考ステップとしては、疑いが残るか、残るとしてその疑いが合理的かという2段階で考えていました。
疑いが残るというのは、各積極的間接事実と要証事実が存在しないこととが両立するストーリーを描けることです。
疑いが合理的というのは、上記ストーリーが裏付けの乏しい抽象的な可能性に留まらず、一定の消極的間接事実等に裏付けられて具体的に成立し得ると評価できることです。
余談ですが、特に実際の事件などでは、ストーリー自体は存在する場合が少なくないですが、しかしそれは抽象的なものに留まるということがしばしばあるなと思いました。
最後にこのような検討を踏まえて、「4.要証事実認定の可否」について結論を示し、事実認定起案は終わります。

おまけ(科目ごとの整理)
最後に、上記で説明した内容について、科目ごとに要点を整理しておきます。
刑裁
採用された書証+証人尋問、被告人質問調書を使う。
積極的間接事実は証予・予定主張で明示されるものもあれば、されてないものもある。
間接事実の存否が争われそうな事実は、認定(供述証拠の信用性検討)を慎重に行い、どこまで認定できるかを明確に示す。
間接事実の存否ではなく推認力が争われそうな事実は、経験則を丁寧に指摘した上で、消極的間接事実に基づく反対仮説の成立可能性も考えられるものは丁寧に吟味する。
A否認供述については、供述内容である事実を否定できるもの(認定できる間接事実と相反する等)は否定し、否定しつくせないものについては、これがあったとして合理的疑いが残るかを吟味する。

検察
「証拠分け→採用決定」という「ふるい」に掛けられる前の証拠を使う(内容重複もよくある)。
そもそも事件像(公訴事実)を一から特定しなくてはならない。
証拠から積極的間接事実の抽出作業に比重が置かれる。
間接事実毎に、立証の難易度についての検討も行う。

刑事弁護
「ふるい」に掛けられた証拠+開示(かつ公判未提出)証拠を使う。
事件像や積極的間接事実は記録に示される。
ただし、アナザーストーリーの構成を要する。
認定根拠を確認し、供述証拠に基づいているなら、その信用性弾劾をして間接事実の存在を争うことを考える。
客観証拠等信用性の弾劾は難しい証拠から認定できる間接事実については、その推認力を争うことを考える(基本的には、反対仮説の成立可能性を説得的に論じる)。
その他A否認供述に基づく事実を主張する等して合理的疑いが残ることを示す。

ブログ開設3周年のご挨拶

ロー入試を突破するため四苦八苦していた頃から3年が経ちました。

当ブログは、開設当時の想像を超えたところまで来てしまっているなという気がしています。
法学との向き合い方も、当時とは結構違ってきているように思います。

ただ、法律論を扱うことの面白さや、一定の成果を得た際の喜びは今も何ら変わりません。

ここまで更新が続いたのは、やはり多くの方からのリアクションがあったからに他なりません。

今の身分が続く限り当ブログは存続しますが、その後どうなるかは未定の状態です。
それでも、きっと法学の世界のどこかで何かを発信していると思います。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

司法試験後の書籍・刑事編

司法試験後に使った書籍の刑事編です。
ざっと走り書きと言う感じなので、余裕を見て適宜補完していきたいと思います。

刑事実体法
『条解刑法』
修習において、ギリギリと刑法解釈論を突き詰めるような場面はありませんでした。
むしろ、頭の中にインプットされている知識・思考方法で事足りるのがほとんどで、本書については表現を確認するため一瞥する程度でした。
同シリーズの刑訴に比べれば、使用頻度はかなり低かったです。
もっとも、第1編「総則」(執行猶予や加重減刑など)を適切に運用すべき場面があり、短答対策を相当しっかりやってない限り即座に使いこなすことはできないだろうと思います。そこで、実務に通用する運用方法をキチンと確認する用途で、本書は役に立ちました。

刑事手続
白表紙について
裁判手続については、『プラクティス刑事裁判』と『プロシーディングス刑事裁判』をとりあえず通読することがスタートになると思います(期日を傍聴しつつ、これらの書籍の記載と実際の訴訟指揮とを照応して読むと面白くなり、理解が進みます)。
捜査手続については、まず『検察講義案』や『終局処分起案の考え方』で、刑事係の仕事の一応のゴールである終局処分についてのイメージを掴むということになるでしょう。

松尾浩也監修『条解刑事訴訟法 』
実務における解釈適用について詳しく、また基本書等ではカンタンに触れられるのみだけど実務では使う条文についてもしっかりと解説がなされているので、この本に頼る頻度は結構高かったです。
問題点は、値段が恐ろしく高価な事です。
とはいえ、刑事事件に携わる可能性が皆無な進路をとらないかぎり、早期に購入して付箋や書き込み等を残しておくのが良いのではないでしょうか。

下津健司ほか『民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎 』
裁判員裁判、令状審査等、刑裁修習における主要な学習事項についてコンパクトにまとまっているので、予習にもってこいだと思います。
なお、これは司法試験の復習になりますが、実況見分調書の証拠能力に関する説明は極めて秀でています。
民事裁判編も大変素晴らしいので、併せて読みたいところです。

石井一正『 刑事実務証拠法 』
証拠調べ手続及びその後の心証形成(事実認定)についての解説書です。
実際に証拠調べを傍聴したり、証拠調べ後の記録を読んでいると、刑訴法・刑訴規則が規定していない取扱いレベルの事柄にしばしば遭遇しますが、そういった事項についても説明がなされています。
また、各当事者の準備についても述べられていたりします(証拠調べは争点整理と密接に結び付くので嬉しいところです。)。
平成23年出版ということで、その後の進展が目覚ましい裁判員裁判&公判前整理手続の現在の運用をフォローできていないのが惜しい所ですが、それでも参考になる記述にあふれています。

ダイヤモンドルール研究会ワーキンググループ編著『実践! 刑事証人尋問技術 事例から学ぶ尋問のダイヤモンドルール』
証人尋問の本です。
尋問例にしたがって解説がされており、そのダイナミックさは読み物としても面白いです。
実際の尋問について、その良し悪しを考察するためにも是非読んでおきたい一冊です。
また、判決との関係でどんな要証事実についてどんな供述を得たり弾劾したりするべきかということで事実認定の勉強にもなります。

新関雅夫ほか 『増補 令状基本問題〈上〉 』 『同〈下〉 』
タイトルに「令状」がついている通り、捜査法に関する参考書です。
平成8年出版ということで、既に20年前の書籍です…が、非常に使えます。
検察修習では、司法試験を実務寄りに発展させた設問を解く場面があり、その際にとても参考になると思います。
余談ですが、司法試験対策としては、実例刑訴Ⅰよりおすすめです。

池田修ほか『解説 裁判員法』
裁判員裁判は、裁判官裁判(裁判員裁判じゃない刑事裁判のこと)とは異なる手続運用をしている部分が少なくないので、その辺に詳しくなりたい方向けにおすすめします(裁判官も使ってました。)。

前田雅英編『刑事訴訟実務の基礎』
予備試験対策でもおなじみの本です。
記録編には、白表紙に収録されてない種類の書面が収録されていたりして、参考になります。

刑事事実認定
白表紙について
刑裁修習向けの『事実認定ガイド』、検察修習向けの『終局処分起案の考え方』を読み込んで中身を理解することに尽きる部分があります。

その他、分野別修習で扱った事件に応じて、下記の書籍を参照しました。網羅的には扱っていないのでレビューは留保します。
小林充ほか編『刑事事実認定重要判決50選(上) 』 『同(下) 』
木谷明編『刑事事実認定の基本問題 』


刑事弁護
刑事手続・事実認定の両面にわたって、弁護人としての活動について解説される書籍群になります。
白表紙はあまり読んでいないので割愛します。

季刊刑事弁護増刊『刑事弁護ビギナーズver.2 』
岡慎一ほか『刑事弁護の基礎知識』
とりあえずどちらかがあればいいのかなと言う感じですが、刑事弁護の基本的事項について解説がなされています。

宮村啓太『事例に学ぶ刑事弁護入門』
より掘り下げられた書籍で、特に公判前整理手続における活動などは参考になりました。

その他読み物として
大木孝『和光だより 刑事弁護教官奮闘記 』
櫻井光政『刑事弁護プラクティス』


民法(債権法)改正と司法試験2(総則の論証改修)

はじめに
試験過去問に基づいて民法の改正点について学習するスタンスでは限界もありそうなので、趣向を変えて、直截的に改正点を試験対策目線で概観してみました。
今回は民法総則に関する部分で、かつ論文式試験で運用する可能性の高いポイントを扱いました。
民法総則には、法律行為の効力や権利の得喪に関する強力な規定が多くあります。
訴訟の局面においては、各則が規律する請求原因事実の主張に対する抗弁、さらにこれを前提とする再抗弁あるいは予備的請求原因といった、展開部分において活用するイメージが強いように思います。その適用が認められれば、訴訟の帰趨は大きく変わります。
もっとも、事実認定上、多くの事情を総合する必要があるヘビーな要件が多々あります。したがって、これらの抗弁等に関する訴訟活動においては、量・質ともに十分な主張立証活動が必要になる印象を持っています。
主張立証活動・事実認定を十分なものにするためには、ゴールとして想定すべき法解釈のありようをしっかりつかんでおくことが重要なのだろうと思います。

まえおきが長くなりましたので、早速中身に入ります。
動機錯誤、代理人の詐欺、消滅時効の援用権者、債権消滅時効の主観的起算点の4つを扱います。

第1 動機錯誤取消し
新法95条1項2号にて、表示の錯誤とは別個に、動機の錯誤が法定されました。
「表意者が法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤」という文言によって動機の錯誤が表現されています。
もっとも、動機の錯誤による取消権が発生するには、①「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた」こと(95条2項)と、②「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であること(95条1項柱書)が必要です(※要件事実論:以上の要件該当事実が認められれば錯誤取消しの抗弁が認められると理解しています。他方、実体的には3項、4項の問題もありますがこれらは再抗弁に関する規定群と整理できると思うので、割愛します)。

①「表示」
このうち①について、素直な文理解釈としては事実行為としての表示行為(伝達した、と言えば分りやすいでしょうか)がなされれば足りると読めます。しかし、おそらく通説的な解釈は異なるものと予想されます。
すなわち、「表示」とは、単なる事実行為にとどまらず、当事者の意思解釈上、当該表示内容が法律行為の内容とされていること要する。内容とされているというためには、動機の表示のみならず相手方の了承を要する。
潮見教授は、このような解釈論を第1に提示します(潮見『民法(債権法改正)の概要』9頁、同『民法(全)』52頁)。
95条2項は、動機の錯誤に関する旧法下の判例法理を立法化したものであるという前提があります(潮見民法52頁)。
そして、かかる判例法理そのものの解釈として、内容化重視か、表示行為重視かという理論的対立がありました。この旧法下の判例法理の解釈論が、そのまま95条2項へ舞台を移したに過ぎないというわけです。
そしてこの判例法理の解釈としては、内容化重視が多数説を形成していると言ってよいでしょう(山本『民法講義Ⅰ』187頁、佐久間『民法の基礎1総則』155頁参照)。そこでの説明を踏まえて、今一度、95条2項の解釈論を整理します。
(論証例※大展開)
たしかに、文言からは事実行為としての表示行為があれば足りると読める。実質的にも、動機が表示されてさえいれば、かかる動機に関する錯誤を顧慮して取消権を認めても、相手方の信頼を害する程度は抽象的には低減するといえる。
しかし、法律行為を行うに至った個人的事情を相手方に聞かせておけば錯誤取消しが認め得ると解するのでは、尚相手方が過度に法律行為無効のリスクを負うことになり、妥当ではない。
そもそも、意思表示の効力を判断する上で、表意者とその相手方がした合意を尊重することが重要であり、合意の内容に錯誤がある場合にはもはや尊重すべき基礎を書き取消権を認めるべきであるが、反対に、合意に関しない錯誤があるにすぎない場合には尚当該合意は尊重されるべきである。
したがって、「表示」とは、単なる事実行為にとどまらず、当事者の意思解釈上、当該表示内容が法律行為の内容とされていること要する。内容とされているというためには、動機の表示のみならず相手方の了承を要する。

②重要性
次に②の重要性(95条1項柱書※「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」)についてですが、これは「法律行為の要素」と呼ばれたものを言い換えたものとされます(潮見概要8頁)。法律行為の要素とは、意思表示の内容のうち重要な部分のこと(大判大正7・10・3民録24・1852)をいうとされていました。
(論証例)この重要性は、ⅰその点に関する錯誤がなければ表意者は意思表示をしなかったであろうということ(因果関係)、ⅱ法律行為の目的に照らしての当該錯誤の重要性、ⅲ取引上の社会通念に照らしての当該錯誤の重要性が認められることで肯定される。
この3つの事情は、潮見教授が掲げるものです(潮見概要8頁)。
なお、ⅰは文理から直ちに導けませんが、錯誤取消しの趣旨は表意者保護にある以上、表意者が錯誤を知っていたとしても同じような意思表示をしたと考えられる場合は、錯誤無効を認める理由はないことから、要件となると説明できるでしょう(山本講義Ⅰ208頁)。主観的因果性として旧法下の解釈論上も要件と解されてきました。
対して、ⅱ及びⅲは旧法下における客観的重要性として要件と解されたものです。
ⅱの位置づけについては、客観的重要性の判断基準が「一般的に言えば、当該種類の法律行為の定型的特性と、当事者が法律行為をした趣旨を勘案して判断されることになると思われる」(佐久間総則157頁)という説明が参考になります。
(以上を踏まえて、95条2項について事実行為で足りる見解をもう一度見てみます。「表意者が当該動機を表示し、これを相手方が了解しなかったにもかかわらず、合意が成立している」等な場合を想定します。この見解ならば、尚95条2項をクリアする場合です。しかし、そのような場合、当該動機については、当該合意の目的に照らして、あるいは社会通念上重要ではない事情に過ぎなかったのではないか、という素直な疑問が浮かびます。結局、重要性(95条1項柱書)を欠き、最終的に錯誤取消が認められないことになるように思われます。)

第2 代理人の詐欺による相手方の意思表示の効力(民法101条関係)
旧法下までは明治時代の大審院判例を受け継いで旧法101条1項の適用という処理が通用していました(山本講義Ⅰ358頁)。しかし、同項については、代理人のした意思表示それ自体に瑕疵ある場合を念頭に置いたものであると指摘されていました(山本講義Ⅰ358頁、佐久間総則253頁補論)。
その指摘が改正法に反映された結果、もはや適用の余地のない文言となりました。
そのため、上記判例は先例性を失ってしまい、代わりになる解釈が求められます。
そして、その解釈論とは、96条1項の適用になると思われます(潮見民法75頁)。
この解釈論自体は、旧法下でも唱えられてきたものです。
(論証例)
民法101条1項は代理人がした意思表示に関する問題を規律しており、適用されない。
また、同2項は、相手方がした意思表示に関する規律ではあるが、「意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合」ではないから、結局適用されない。
そもそも、本人は代理人を利用して相手方と法律関係を形成する者であって、代理人の行為のリスクは本人みずから負担すべきであるし、本人自身が詐欺をしたとみるべきである。そこで、96条1項が直接適用されるものと解する。

第3 消滅時効の援用権者(民法145条)
消滅時効について「その他権利の消滅について正当な利益を有する者」(民法145条)
とは、「時効により直接利益を受ける者」に関する判例の判断準則に従って判断されます(内容省略)。具体的には、時効によって債務を免れる者として債務者、保証人、連帯債務者、時効によって権利喪失を免れる者として物上保証人、抵当不動産の第三取得者、詐害行為の相手方が援用権者として判例上認められてきました。このうち、145条で例示されている者を除くと、「連帯債務者、抵当不動産の第三取得者、詐害行為の相手方」の三者が少なくとも「その他権利の消滅について正当な利益を有する者」に当たることになります。

第4 債権の消滅時効の起算点
改正法では、不法行為に基づく損害賠償請求権に限らず、債権の消滅時効の起算点について主観的起算点と客観的起算点の二つの基準が規定されました(なお、不法行為の客観的起算点による期間制限については、これを除斥期間とする判例の立場に批判的な多数説に従い、724条柱書で消滅時効と明記されました。)。
主観的起算点については、旧法下での724条に関する解釈論がそのまま転用されるものと考えられます(潮見民法46頁)。
(論証例)
債権の消滅時効の主観的起算点(民法166条1項1号)である「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)とは、権利行使が期待可能な程度に権利の発生及びその履行期の到来その他権利行使にとっての障害がなくなったことを知った時を意味する。具体的には、債権発生の原因、債務者、行使することができる時(時点のこと)より前に原因及び債務者を知ったときは行使することができる時がいつかを知ったときである。
※なお、主たる給付に関する債権については、主観的起算点は、民法166条1項2号の客観的起算点と一致する。他方で、保護義務、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求権などでは一致しない。